テーマA|AIガバナンスをどう設計するか
AIを、誰がどこまで決めてよいことにするか。
生成AIの導入を現場の判断に任せてよいのか、それとも全社で統制すべきか——多くの経営者が今、この二択の間で止まっています。しかし本当の論点は「使う・使わない」ではなく、「どの判断を、誰の承認マターにするか」という統治設計です。技術評価より先に、決定権の設計を誤ると、AIは経費申請の陰で既成事実化していきます。
Case 02|通信キャリア——AIモデル評価の独立監査 良い数字ほど、先に疑う。
AIへの投資を、技術の精緻さだけで評価してよいのか。論点になっていたのは解約予兆AIモデルの評価——だが、その問いの前に確認すべきことがある。過学習リスク、季節性の分離、データ鮮度。この3点を優先して質し、施策効果と連動しない単純な的中率評価を退けて、検証方法をその場で即興提示した。
もう一つの論点は「新料金プラン移行者の解約リスクスコアが低い」という良い数字の解釈だ。母集団が直近の新規移行者に限られる以上、この数字は統計的に当然である可能性がある。移行したばかりの顧客は、解約しない。
だから拙速な成果認定を保留させた。AIの出す数字を疑う役は、AIには任せられない。
Case 06|メディア企業——AI導入の統治ゲート設計 経費申請は、同意ではない。
新たな生成AIコーディングツールの導入が、経費申請ベースで既成事実化されつつあった。誰も明示的に承認していないのに、使われ始めている——これはAI時代に最も起きやすい統治の穴だ。新規ツールを機密データに触れさせる前に、立ち止まらせた。
実コード・実リポジトリのレビューは既存の公認AIボットに寄せ、新規ツールは機密を含まない執筆補助に限定する。この役割分担を設計した上で、経費申請による導入を「同意」とみなすやり方を明確に拒否した。
データ範囲・セキュリティ・契約条項——3つのゲートを書面で通してからでなければ、実データには触れさせない。AIが決めていいことと、人間が決め続けるべきこと。その境界線は、まさにこういう場面で引かれる。